大判例

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名古屋高等裁判所 昭和25年(ナ)3号 判決

原告 塩谷市雄 外二十六名

被告 石川県選挙管理委員会

一、主  文

原告等の請求を棄却する。

訴訟費用は原告等の負担とする。

二、事  実

原告等訴訟代理人は「昭和二十五年八月十五日執行せられた加賀海区漁業調整委員会委員選挙は無効とする。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求の原因として、原告等は祖先以來石川縣加賀海区内で漁業に從事し漁業法に基き漁業調整委員会委員の選挙権を有するものであるが、昭和二十五年八月十五日執行せられた加賀海区漁業調整委員会委員の選挙について種々の違法があつたので原告塩谷市雄は同年八月二十二日、同田村善太郎は同月二十九日、同高井五一以下二十五名は同月二十八日それぞれ被告に対し選挙の効力に関する異議申立をしたところ、被告は同年九月十五日右異議申立全部を棄却する旨の決定をなし同月十七日該決定書が原告等に送達せられた。しかし右選挙については次のような違法があつて無効である。

第一、右選挙が執行せられるに当つて加賀海区の選挙人総数は九、五二二名と発表せられ選挙の結果当選最高点一、三六三票田丸甚三郎、最下点九三一票本吉與三吉、次点七五九票元谷久藏、六四七票田丸善太郎、六一〇票城力吉雄と公表せられたのであるが、右選挙に際して、七塚町選挙管理委員会は同年七月下旬選挙人等に対し、

八月十五日漁業調整委員会委員の選挙日です。

一、投票日時及投票場所

八月十五日午前七時より午後六時まで於七塚町役場

一、選挙資格の登録について

漁業経営者及漁業從事者で過去一年を通じ九十日以上その業にある成年以上の男女である既に調整した選挙人名簿に洩れている者は八月九日限り異議申立をして登録すること

昭和二十五年七月 七塚町選挙管理委員会

と明記印刷した文書を公布したので、選挙権有るに拘らず選挙人名簿に脱漏せられている者多数は七塚町選挙管理委員会に登録方を申出でたところ、同委員会は既に石川縣より通知されている期間を経過しているから登録できない。と称して登録をしなかつた。その数は能登利夫外一七〇名以上である。これとは反対に河北郡高松町宇野気町、内灘村等においては選挙人名簿に脱漏されていたもの二〇〇名以上を右八月九日迄に登録し投票させた事実がある。右の登録の申出に対してこれを拒否して登録しなかつたことは、選挙事務に関係ある吏員が職務の執行を怠り選挙の自由公正を妨げたもので公職選挙法第二百二十六條に違反したものに外ならない。仮にこれが違法でないとするならば前記他町村において登録投票させたことが違法であるから、いずれにしても右選挙は違法であつてその違法は選挙の結果に異動を生ずるものであることは計数上明らかである。

第二、加賀海区高松町選挙管理委員会においては当初選挙権行使の基本たる選挙人名簿を作成した(被告はこれを甲名簿という。)に拘らず、その後同年七月下旬さらに選挙人名簿(被告はこれを乙名簿という。)と称するものを作つて、同委員会は前記投票日にこれを使用して本件選挙を行つた。しかし右の後に作成せられた選挙人名簿なるものはこれに氏名住所生年月日が記載してあるとしても適法有効な選挙人名簿と称するをえないから、投票日にこれを使用して選挙権行使につき対照の用等に供したことは違法であるのみならず右高松町の選挙においては選挙執行の際使用する選挙人名簿から選挙人沖野太三郎の氏名を沒却しており、高松町における選挙は到底適法有効に行われたというをえない。したがつて同町における有効得票と発表された五七〇票の投票は無効であつて、これは選挙の結果に当然異動を及ぼすものである。

よつて本訴に及んだ次第であると陳述した。(立証省略)

被告は主文同旨の判決を求め答弁として、原告等主張事実の中、原告等が加賀海区漁業調整委員会委員の選挙権者であること、昭和二十五年八月十五日執行された右委員会委員選挙について原告等がその主張の日時被告に対し選挙の効力に関する異議申立をし、被告がこれに対し同年九月十五日全部棄却の決定をし該決定が同月十七日原告等に送達されたことは認める。

次に原告等主張第一事実中加賀海区の選挙人総数並に選挙の結果が原告主張の如くで公表せられたこと、七塚町選挙管理委員会が原告等主張の日時その主張のような印刷物を発行したこと、これについて選挙人名簿に脱漏せられているものが七塚町選挙管理委員会に登録方の申出をしたのに対し同管理委員会が登録方を拒否したことも爭わない。しかし右印刷物は有権者に対する啓蒙宣傳のため同町選挙管理委員会が独自の計画によつて配布したもので、投票日時及び投票場所、投票者の心得代理投票等について注意を喚起したものであるが、たまたま選挙資格の登録について誤つた記載をしたものである。ところで右印刷物の配布されたのは、同年七月二十一日の選挙人名簿の脱漏又は誤載に対する異議申立最終期限経過後であつたので、これによつて選挙人名簿に登載を脱漏された者が異議申立をすることを妨げたことにはならない。したがつて右期限後の登録申出に対し同選挙管理委員会がこれを拒否したのは当然であつて、これを以て選挙の事務に関係ある吏員が職務の執行を怠り選挙の自由公正を妨げたことにはならない。また高松町宇野気町内灘村等において前記七月二十一日の期限後異議申立を許容して選挙人名簿に登録した事実はない。

原告等主張第二の事実中高松町選挙管理委員会が当初成規の選挙人名簿を調製し(仮に甲名簿という。)成規の期間これを縱覧に供して異議がなかつたのに、更に職権で縱覧期間経過後同年七月下旬甲名簿登載氏名七一四名中七〇九名の外に四六名を加えた選挙人名簿(仮に乙名簿という。)を作成したこと、この名簿は再調製の規定に基くものでなく從つて無効の名簿であること、同町の選挙管理委員会が選挙当日選挙人の受付及び対照に右無効な選挙人名簿を用いたことはこれを認める。しかしたとえ右無効な乙名簿による受付対照事務が違法であるとしても、これによつて投票全部が無効となるものではない。即ち乙名簿に登載されているものの中七〇九名は成規の甲名簿にも登載されているものであるからそのものの投票が無効となる理由はない。ただ甲名簿に登載されないで乙名簿に登載されているものの中の三四名の投票は無効であつて右の無権利者を投票させたということは違法であるが、その選挙の結果は右違反のない手続によつて得らるべき結果と異るところなく、当選人と定められた者が当選人たらざるに至り、落選者とされたものが当選人と定められるに至るというような変動を生ずる可能性はない。從つて選挙が無効となることはない。また選挙人沖野太三郎を選挙執行の際使用した乙名簿から沒却したというのは同人が甲名簿に登載されていたのを乙名簿に脱落されたに止まつて、これによつて同人の適法な選挙権の行使を制限したものではなく、同人の投票に來て投票しようとした事実も立証されていないから選挙の自由公正が阻害されたとはいえないと述べた。(立証省略)

三、理  由

原告等が昭和二十五年八月十五日執行された加賀海区漁業調整委員会委員選挙の選挙人であること、右選挙につき原告等が被告に対しその主張の日時異議の申立をなし被告が同年九月十五日その申立全部棄却の決定をし該決定書が同月十七日原告等に送達せられたことは当事者間に爭なく、本訴が法定期間内たる同年十月五日に提起せられたことは記録上明かである。

よつて原告等主張の第一の事実を審究する。

前記選挙に当つて七塚町選挙管理委員会が原告等主張のような印刷物を有権者に配布したこと、(右配布の期日は原告等は同年七月下旬と主張しているが成立に爭のない乙第三号証によると同年八月上旬と認めるのが相当である。)及び右印刷物によつて選挙人名簿に登録されていない者が右選挙管理委員会に対し登録方を申出たのに対し同選挙管理委員会が原告等主張のように申し向けて登録を拒否したことは当事者間に爭のないところである。

原告等は右は公職選挙法第二百二十六條に違反し且つ選挙の規定に背くものであると主張する。漁業法附則第十項第十一項に基く昭和二十五年政令第百二十三号附則第三項によると同年執行せらるべき漁業調整委員会委員の選挙について選挙人名簿の縱覧期間を七月十五日から七日間と定めたことが明かであつて、選挙人名簿の脱漏または誤載に対する異議申立は縱覧期間内に限られることは漁業法において準用する公職選挙法第二十三條の定めるところであるから、前記印刷物において「既に調整した選挙人名簿に洩れている者は八月九日限り異議申立をして登録すること」という記載は明かに前記法令と矛盾する。しかし七塚町選挙管理委員会が右法令と牴触する異議期間を定めうる旨の規定がない以上右記載によつて前記法令による異議期間が変更されたことにならないのは当然であつて、畢竟右記載は当事者間に爭のないその後の同選挙管理委員会の言動に徴すると全く同委員会の前記法規の不知に基く誤解に出たものと認められこれによつて住民の一部を迷わせたことについて同委員会が責任を負わねばならぬことは勿論であるが、前記のように法令所定の異議期間が変更されたものでないから、その後同委員会が右記載に基いて登録方を申出たものに対してこれを拒否したのは当然であつて何等違法ではない。また高松町宇野気町内灘村等において、前記七月二十一日の異議申立期限後に異議申立を許して選挙人名簿に登録したという事実については原告等の立証によつてはこれを認めることができない。從つて原告等主張の第一の事実について本件選挙が無効であるとすることはできない。

次に原告等主張の第二の事実について考える。

高松町選挙管理委員会がさきに成規の選挙人名簿(甲名簿)を調製しながらその縱覧期間経過後にさらに漁業法第八十九條によつて準用せられる公職選挙法第三十條に基かずしてみだりに選挙人名簿なるもの(乙名簿)を作成し、これを選挙期日における選挙人の受付及び対照に使用したことは爭のないところであつて、右の後に作成せられた乙名簿には成規に作成せられた甲名簿に登録せられた有権者七一四名中七〇九名の外に四六名の氏名が記載せられていることは成立に爭のない甲第二、三、乙第四号証によつてこれを認めることができる。

而して前記政令第百二十三号によつて準用せられる公職選挙法施行令第三十五條によれば投票管理者は投票立会人の面前において、選挙人が選挙人名簿に登録されている者であることを選挙人名簿又はその抄本と対照して確認した後に、これに投票用紙を交付すべき旨を規定している。勿論前記乙名簿は当事者のいうが如くである以上甲名簿の抄本として作成されたものではなく、その中には甲名簿に登録されていない者の記載もあるわけであるから、これを抄本と同一視するわけには行かない。して見ると右乙名簿の記載との対照によつて投票用紙を交付し又は交付しなかつたことは選挙の規定に違反するものといわなければならぬ。しかしこれがために本件選挙を無効とすべきかどうかについては更に右違反が選挙の結果に異動を及ぼす虞があるかどうかを審査せねばならぬ。而して選挙の結果に異動を及ぼす虞のある場合というのはその違反がなければ選挙の結果について異つた結果を生じたかも知れぬと考えられる場合をいうのであると解すべきであるが、成立に爭のない乙第二号証の一、(甲第三号証)によれば右選挙当日投票場に來て投票用紙を受取つて投票したものは前記甲乙両名簿に登載されている七〇九名中五三八名、甲名簿に登録されないで乙名簿のみ登載されているもの四六名中三四名であつて、甲名簿に登録されていて乙名簿に登載されていない沖野太三郎等五名のものは投票場に來らず棄権した事実が認められる。この場合仮りに選挙人の対照確認に甲名簿が使用されていたとしたらどうであろうか。前記の五三八名の有権者には同じく投票用紙が交付され投票が許されたであろうことは疑なく、また沖野太三郎等五名のものは投票場に來なかつたのであるからこれは論外である。結局残るところ乙名簿のみに登載されて甲名簿に登録されない四六名中三四名について投票が拒まれた結果となつたであろうと考えられる。そうすると前記違反がなかつたとすれば本選挙の投票数中三十四票が減少する結果を生じたに過ぎないこととなる。ところで本件当選者の最下位本吉與三吉の得票数は九三一票で次点元谷久藏のそれは七五七票であることは当事者間に爭のないところであるから、かりに右三十四票が全部本吉與三吉に投票されたとしてその得票数からこれを控除してもなお次点者元谷久藏の得票数を遙に凌駕しているので当落の結果には何等の影響がないことが明かである。すなわち前記規定の違反はこれによつて選挙の結果に異動を及ぼす虞がないのであるからこれによつて本件選挙を無効とすることはできないものといわねばならぬ。

以上説明のとおりであつて原告等の本訴請求はすべてその理由がないから、これを棄却すべきものと認め訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九條を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 中島奬 茶谷勇吉 白木伸)

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